学会誌 第93巻第4号 農村を安全に支えるには(2025年4月発行)

◆小特集の趣旨
 農作業を行うため,また,農地や用排水路,ため池,農道などを支えるためには,人が現場に出ることが欠
かせません。また,農村空間は,農業者だけではなく,地域住民など多くの人たちが利用する空間でもありま
す。しかし,残念なことに,農林水産省による「農業用用排水路における安全管理の手引」をはじめさまざま
な対策が講じられている中でも,農業用排水路やため池での水の事故,高所・法面での転落・転倒,車輌の転
覆などによる死亡事故は後を絶ちません。また,豪雨時等に農地や農業用施設の見回りに出て亡くなる方も根
絶できていないのが現状です。
 このような事故の対策については,転落防止のための柵の整備,スマート農業やデジタルトランスフォーメー
ション推進のための作業の省力化・効率化や危険リスクの除去といったハード整備が考えられています。それ
と同時に,危険に近づかない,安全確保を最優先するといった意識面での対応,危険回避に関する広報の充実
など,ソフトな施策の推進も必要であると考えられます。このように,農村を支える活動の安全を確保しつつ,
安全な農村空間を形成することは,農村の振興を図る上で,緊急かつ重要な課題の一つです。
 そこで,本小特集では,農村の安全に関する課題の現状分析から,対応策の提案,農村の安全に貢献する新
技術の紹介および課題など,ハードな整備とソフトな施策の両面から,農村を安全に支えるために必要な技術・
施策を,施工現場における知見なども含め産学官民で幅広く検討するための報文をご紹介します。

◆展 望 「農山漁村の防災対策強化に向けた取組」
    農林水産省大臣官房地方課災害総合対策室長 川島秀樹

◆小特集報文
農作業安全を考慮した圃場整備ワークショップの試み」
    宇都宮大学 田村孝浩
    宮城県大河原地方振興事務所 平 直人
    宇都宮大学 関谷 翼・荻野真梨紗・松井正実
    農研機構農業機械研究部門 志藤博克
    農林水産省 皆川啓子
    農研機構農業機械研究部門 山﨑裕文
    東京農工大学 酒井憲司
    鈴木労働安全コンサルタント事務所 鈴木信義

新聞記事データベースに基づくため池水難事故の実態と傾向」
    三重大学大学院生物資源学研究科 吉田 楓・岡島賢治・近藤雅秋

ため池法面の材質に応じた這い上がりやすさの評価」
    農研機構農村工学研究部門 廣瀬裕一・井上敬資・堀 俊和

ため池水難事故を想定した模型斜面の脱出困難度評価の取組み」
    農研機構農村工学研究部門 井上敬資・廣瀬裕一・堀 俊和
    産業技術総合研究所 丸山 翼