学会誌 第92巻第5号 世界かんがい施設遺産への登録とその波及効果(2024年5月発行)

◆小特集の趣旨
 熊本県山都町に所在する1854 年に造られた日本最大級の石造アーチ水路橋「通潤橋」が土木構造物として
初めて国宝に指定されるという報道が注目を集めています。この通潤橋を含む通潤用水は,2014 年に世界か
んがい施設遺産にも登録されています。
 世界かんがい施設遺産は,灌漑の歴史・発展を明らかにし,理解醸成を図るとともに,灌漑施設の適切な保
全に資することを目的として,建設から100 年以上経過し,灌漑農業の発展に貢献したもの,卓越した技術に
より建設されたもの等,歴史的・技術的・社会的価値のある灌漑施設を登録・表彰するために国際かんがい排
水委員会(ICID)が設立した制度です。2022 年 10 月時点にて世界で 17 カ国 142 施設,うち日本では47
施設が登録されています。
 世界かんがい施設遺産への登録により,灌漑施設の持続的な活用・保全方法の蓄積,研究者・一般市民への
教育機会の提供,灌漑施設の維持管理に関する意識向上に寄与するとともに,灌漑施設を核とした地域づくり
に活用することが期待されています。具体的な取組みのひとつとして,農林水産省では世界農業遺産・日本農
業遺産,世界かんがい施設遺産を観光コンテンツとして活用するヘリテージツーリズムを推進しています。登
録された遺産を観光資源として積極的に活用するためには,行政,観光地域づくり法人(DMO)・観光協会,
観光関連事業者,地域産業事業者,地域住民といった関係主体の協働体制の構築,観光資源の魅力向上,戦略
的な情報発信,受入れ態勢づくり等が求められます。
 本小特集では,世界かんがい施設遺産への申請までの経緯や申請時の苦労,ヘリテージツーリズムの推進効
果を含む登録後に得られた波及効果,また今後の展望を含む効果的な活用方法についての報文を紹介します。

◆展 望
世界かんがい施設遺産の有効活用に向けて」
    農林水産省農村振興局整備部設計課海外土地改良技術室長 鷲野健二

◆小特集報文
通潤用水・通潤橋の文化的価値と農業農村工学技術者に期待される役割についての
一考察」
    農研機構九州沖縄農業研究センター 島 武男
    農研機構農村工学研究部門 廣瀬裕一
    山都町教育委員会 西 慶喜・大津山恭子

「山形五堰」400 年の歴史と今後の展望」
    山形県村山総合支庁産業経済部農村計画課 三浦智明
    山形市農林部 渡邉俊和

十石堀の世界かんがい施設遺産登録の波及効果と今後の展望」
    茨城県政策企画部水政課 木村直幸

位置情報ゲーム「農村GO」による世界かんがい施設遺産魅力ポイントの可視化」
    岐阜大学大学院自然科学技術研究科 大塚健太郎・浅野珠里
    岐阜大学工学部 小島悠揮
    東京大学大学院農学生命科学研究科 乃田啓吾

地域の共通資本である立梅用水の可能性とこれからの活用」
    パシフィックコンサルタンツ(株) 左村 公
    (株)協和コンサルタンツ 諸藤聡子
    立梅用水土地改良区 山本有紀
    (一社)ふるさと屋 髙橋幸照
    農研機構農村工学研究部門 遠藤和子
    東京農業大学 中村好男