◆小特集の趣旨
農業水利技術の歴史を概観すると,近代化に伴う用排水施設の整備で通水機能の向上,管路化,近年では頭
首工の統合化,巨大なダムや用排水機場の整備,情報・通信技術を利用した水管理が実施されてきています。
この発展過程は,化石燃料を利用した機械化の進展にともない大型化,集中化を可能にしたといえます。一方,
世界的なリスクの顕在化によるエネルギー価格の高騰等を受けて,電気料金は過去最高水準で推移しています。
農業水利施設の維持管理費においては,電気料金が占める割合は全国平均で約 1/4 と高く,土地改良施設の維
持管理に深刻な影響を与えている状況にあります。
このため,今後の農業水利施設の施設更新では,短期的な経済合理性のみの評価ではなく,省エネルギー化
を推進することが大切です。また,みどりの食料システム戦略を推進し,持続可能な食料システムを構築する
ためにも重要となっています。
そこで,本小特集では,農業水利システム全体の省エネルギー化を展望して,農業水利システムを構成する
農業水利施設に対するエネルギー効率の把握や評価方法,ダム・頭首工から末端水路等までを含む農業水利施
設の整備や管理に当たって省エネルギー化の推進につながる取組み事例や提言などを紹介いたします。
◆展 望 「農業水利システムの省エネルギー化を取り巻く情勢の変化」
農研機構農村工学研究部門水利工学研究領域 桐 博英
◆小特集報文
「灌漑システムの省電力化と更新事業の低炭素化のバランス」
東京大学大学院農学生命科学研究科 吉田修一郎
東京大学農学部 長瀬桃香
「水需給を考慮したポンプ制御と再生可能エネルギー導入による灌漑システムの省エネルギー化に関する検討」
農研機構農村工学研究部門 中矢哲郎
(株)IHI 長谷川文夫・稲村彰信
(株)荏原製作所 岡本 茂
豊川総合用水土地改良区 牧瀬寿幸
農研機構農村工学研究部門 人見忠良
「農業水利施設の省エネルギー化の効果の分析」
農林水産省農村振興局整備部水資源課 田中卓二
農林水産省農村振興局整備部設計課 草薙弘樹
(一社)農業土木機械化協会 菊田恭輔
「ポンプ灌漑システムの省エネルギー化の検討」
(株)三祐コンサルタンツ 光安麻里恵
農研機構農村工学研究部門 浪平 篤
東京大学 吉田修一郎
「低平地における配水槽式パイプラインの費用削減効果と課題」
新潟大学大学院自然科学研究科 竹田宏太朗
新潟大学自然科学系 宮津 進
富山県富山農林振興センター 池口渓介
新潟大学自然科学系 吉川夏樹
「水田ブロック一括水管理を目指した開水路での均等配水装置」
鹿島建設(株) 岩瀬充季
岩手大学農学部 飯田俊彰
近畿大学農学部 木村匡臣
農研機構農村工学研究部門 中田 達
東京大学 久保成隆