◆小特集の趣旨
日本の中山間地域は,耕地面積,総農家数,農業産出額とも約4 割を占め,わが国の農業の維持発展に大
きく寄与しています。さらに近年,豪雨等の自然災害が増加傾向にあり,土壌侵食や土砂崩壊の防止など,中
山間地域の農業・農村の多面的機能が担う役割も増しています。他方,これらの地域では深刻な高齢化や人口
減少が進み,農用地・農業用施設等の維持管理さえ困難な状況に陥りつつあり,農業生産活動の減退に加え,
生活に必要な機能の弱体化も問題になっています。
農政の憲法である食料・農業・農村基本法では中山間地域について,「国は,中山間地域等においては,適
切な農業生産活動が継続的に行われるよう農業の生産条件に関する不利を補正するための支援を行うこと等に
より,多面的機能の確保を特に図るための施策を講ずるものとする。」とされています。現在行われている基
本法見直しの中間とりまとめ案では,農村人口が減少する中での農村に関する基本的施策として,農村への移
住・関係人口の増加,地域コミュニティの維持,農業インフラの機能確保が重要であると発表されました。
以上より,本小特集では,中山間農村地域の農用地・農業用施設の維持管理や地域資源の保全に関する実態
研究や課題,新たな取組みである農村RMO※などに関する報文をお届けします。
※農村RMO:複数の集落の機能を補完して,農用地保全活動や農業を核とした経済活動と併せて,生活支援等
地域コミュニティの維持に資する取組みを行う組織。RMO は,Region Management Organization の略。
◆展 望
「中山間地域の未来を創造する」
京都大学大学院地球環境学堂/農学研究科,愛媛大学大学院農学研究科 武山絵美
◆小特集報文
「中山間地域での地域づくり手法とその人材育成」
前 山形県農林水産部農村計画課 草 大輔・阿部志美
農村づくりプロデューサー 髙橋信博
「稲倉の棚田における各種保全活動の意義と耕地条件改善の必要性」
信州大学農学部 内川義行
長野県坂城町 老野比奈美
「豪雪中山間地における錦鯉養殖の持続的発展の特徴」
新潟大学大学院自然科学研究科 五十嵐樹里
新潟大学自然科学系 坂田寧代
「農業用水路の点検・機能診断の実態解明と持続可能性の検討」
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域 九鬼康彰
三井共同建設コンサルタント(株) 正木弘之
「焼畑用地選定に関する技能・知識の継承における視線計測技術の利用可能性」
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 河本裕子