学会誌 第92巻第4号 農業農村工学が主導する持続可能な開発目標SDGs(2024年4月発行)

◆小特集の趣旨
 農業農村工学は,農業の生産性向上と農村の生活環境の改善,加えて,地域全体の持続的発展に貢献するこ
とを目的として,循環を基調とした社会を構築し,水・土などの地域資源について,人と自然の調和,環境へ
の配慮を重視して合理的に管理する科学技術としてさまざまな取組みを行ってきました。そのため,従来から
人と自然の調和に気を配りつつ,地域の持続的な発展に寄与してきた農業農村工学は,今,地球規模で目標と
される「持続可能な開発目標SDGs」を最も体現しやすい領域の一つであると考えられます。
 農業農村工学におけるSDGs に関わりの深いテーマとして,地域資源循環やバイオマスの利活用が挙げられ
ます。2022 年9 月に閣議決定された新たな「バイオマス活用推進基本計画」は,みどりの食料システム戦略
に示された生産力の向上と持続性の両立を推進し,地域資源の最大限の活用を図ることを目指しています。た
とえば,もみ殻を暗渠の疎水材として利用することは,農地の機能向上とその有効利用とともに,光合成産物
―大気から固定した二酸化炭素―の地下埋設の効果も有しています。
 2015 年に採択された「2030 年までに達成を目指す17 の目標」のそれぞれは,農業農村工学において担うこ
とができる要素を含んでいます。そのため,さまざまな取組みの中には,SDGs を意識せずに取り組んでいる
ものが,実はSDGs につながる有用な取組みであるというケースもあると思われます。また,最近の社会情勢
を踏まえた食料・エネルギー安全保障への関心の強まりとも連動し,SDGs の達成に貢献する関連技術や研究
への期待もますます高まっています。これらのことから小特集テーマ「農業農村工学が主導する持続可能な開
発目標SDGs」を企画しました。SDGs への貢献や,農業農村工学とSDGs を結ぶ新たな視点からの報文をお
届けします。

◆展 望 「農業農村工学が貢献する持続可能な開発目標」
    農研機構農村工学研究部門研究推進部長 小出水規行

◆小特集報文
農地整備のSDGs に関する国際世論の高まりとわが国特有の取組み」
    農林水産省農村振興局整備部農地資源課 花田潤也
     
新たな担い手につなぐ山間地域の持続的土地利用」
    長野県木曽青峰高等学校 岩﨑 史
    Office of Climate Change, Biodiversity and Environment, FAO 青木健太郎
    信州大学農学部 鈴木 純

石垣島未来ワークショップによる世代間協働とSDGs」
    九州大学 渡部哲史
    国際農林水産業研究センター 安西俊彦・岡 直子
    総合地球環境学研究所 嶋田奈穂子
    (株)たがやす 鈴木耕平・出村沙代
    東京大学 乃田啓吾
    九州大学 藤岡悠一郎・荒谷邦雄

農業農村工学によるエジプトの水と食の安定的確保への貢献」
    元国際教養大学 石川 薫
    国際農林水産業研究センター 進藤惣治
    関西国際大学 北村浩二
    農林水産省大臣官房 中村康明
     
SDGsの視点を活用した多面的機能支払交付金の外部連携の促進」
    (一財)日本水土総合研究所 石川善成
    農林水産省農村振興局整備部農地資源課多面的機能支払推進室 栗田 徹
    (一財)日本水土総合研究所 山下裕貴・古谷和也

地域資源管理としての炭素クレジットの活用の展開方向と課題」
    国際農林水産業研究センター 渡辺 守
    Green Carbon(株) 大北 潤
    国際協力機構 北田裕道
    アジア開発銀行 高野 伸

地域資源循環推進に資するメタン発酵消化液の肥料利用」
    農研機構農村工学研究部門 中村真人
    農林水産省 北川 巌
    農研機構農村工学研究部門 折立文子・久保田 幸
    農研機構畜産研究部門 森 昭憲
    農研機構本部 松崎守夫
    北海道立総合研究機構 石倉 究
    北海道農政部 櫻井道彦
    北海道立総合研究機構 坂本樹一朗・池本秀樹
    農研機構農村工学研究部門 藤田 睦

農業集落排水汚泥の農地還元によるSDGsへの貢献」
    農研機構農村工学研究部門 藤田 睦・中村真人・折立文子
    農林水産省農村振興局 髙野直人
    京都大学大学院工学研究科 日高 平
    農研機構農業環境研究部門 井原啓貴