学会誌 第91巻第4号 大規模災害の発生時に農業農村工学分野はどう貢献したのか(2023年4月発行)

◆小特集の趣旨
 「天災は忘れた頃に来る」と言います。農業農村工学分野では,将来の大規模災害に備えてハード・
ソフト両面の研究開発を行っています。そしてひとたび大規模災害が発生すれば,農業農村工学分野
の専門家が災害現場にて災害の状況把握から復旧に至るまでさまざまな分野で貢献することが求めら
れます。
 災害復旧現場では専門家の臨機応変な判断と行動が求められます。有田らは災害対応の現場で,担
当者が直面する課題を解決してきた実用的な対策や工夫,気づき,教訓などを後に再現,参照可能な
形で定式化したものを,「現場知」と定義しています(詳しくは本誌第 84 巻第 6 号をご参照ください)。
これまでに東南アジアだけでも1991 年のフィリピン・ピナツボ火山噴火,2004 年のスマトラ・アン
ダマン地震,ジャワ中部地震,2013 年のフィリピン・中部を襲った台風ヨランダ(平成 25 年台風第
30 号)などの大規模災害が起きました。そして 2022 年 1 月にトンガで発生した大規模な噴火は記憶
に新しいと思います。トンガでは災害発生直後に人道支援が始まり,いずれ農地を含むインフラ復旧
が喫緊の課題になります。日本においても東日本大震災のみならず令和 2 年 7 月豪雨などさまざまな
大規模災害を経験してきました。そういった国内外の大規模災害に派遣された農業農村工学分野の専
門家は現地で何を感じ,どのような困難に直面し,そして現地でどう活動したのか,そのノウハウの継
承は将来の大規模災害に対して必ず必要になります。そこで本小特集では,大規模災害で経験した現
場の声とその経験に関する報文を紹介し,現場知として保存して多くの学会員に共有したいと思います。

◆展 望
農業インフラのベース・レジストリの重要性と防災への活用」
    農研機構農村工学研究部門農地基盤情報研究領域 堀 俊和

◆小特集報文
2004年インド洋津波の事例に基づく農業農村地域における大規模津波災害時の
調査内容と留意点」
    農研機構農村工学研究部門 中矢哲郎・桐 博英
    農研機構本部NARO 開発戦略センター 上田達己
     
タイ国タムルアン洞窟遭難事故における救出活動からの学び」
    国際農林水産業研究センター 降籏英樹

自然災害に対する農研機構農村工学研究部門の対応」
    農研機構農村工学研究部門災害対策調整室 後藤高広

熊本地震被害からの復旧・復興における農業農村工学」
    熊本大学大学院人文社会科学研究部(文学系) 山下裕作

平成30年7月豪雨における福岡・佐賀県下の被災ため池調査」
    農研機構農村工学研究部門 吉迫 宏・正田大輔・小嶋 創・竹村武士
    農林水産省農村振興局 寺田 剛
    基礎地盤コンサルタンツ(株) 小德 基