学会誌 第91巻第2号 乾燥地における持続可能な農業に向けて(2023年2月発行)

◆小特集の趣旨
 砂漠化は,砂漠化対処条約にて「乾燥地域,半乾燥地域,乾燥半湿潤地域における種々の要因(気
候の変動及び人間活動を含む)による土地の劣化」と定義されています。ここで,「気候的要因」は
気候変動や干ばつ,乾燥化などを指し,「人為的要因」は乾燥地の脆弱な生態系の中で,その許容限
度を超えて行われる人間活動を指します。この人間活動には,過剰な耕作や開墾,過放牧,不適切な
農地管理などが挙げられます。
 一度砂漠化してしまった土地では,農業や牧畜業などの食糧の生産基盤が失われるため,環境のみ
ならず資源や安全保障,社会経済などのさまざまな領域でも問題が発生します。また,このような土
地を回復させるためには莫大な時間や労力,そして予算が必要となります。そのため,土地を砂漠化
させない持続可能な土地利用が必要となってきます。しかし,その土地における適切な管理方法を明
らかにするためには,その地域の気象,水質,土壌,品種,管理方法などだけでなく,その土地に暮
らす住民の文化や生活様式からの視点も重要になってきます。
 さらに,今後は地球温暖化による気温や降水量などの気象条件の変化や,グローバル化に伴う住民
の行動や考え方,食の好みの変化などにより,今までは問題が発生してこなかった管理方法に問題の
生じてくる可能性も考えられます。
 以上から,本小特集では,乾燥地域,半乾燥地域,乾燥半湿潤地域における農業生産に起因する諸
問題や砂漠化対策の成功例などの事例,解決策に関する提案,将来予測等に係る報文を紹介します。

◆展 望
持続可能な社会に向けて」
    (公社)農業農村工学会理事,(株)安藤・間 亀井隆夫

◆小特集報文
イスラエルに学ぶ水政策と水技術革新」
    鳥取大学名誉教授 北村義信
     
エジプトにおける農業用水確保のための排水再利用」
    農研機構農村工学研究部門 北村浩二

トラクタ作業と畝間灌漑の改良による持続的な塩類集積対策」
    国際農林水産業研究センター 大西純也・安西俊彦・岡本 健
    インド共和国中央塩類土壌研究所 ラジェンドラ クマ ヤダフ・ガジェンドラ ヤダフ・ネハ
    農研機構農村工学研究部門 北川 巌
    (株)復建技術コンサルタント 奥田幸夫

地域未利用資源を活用した燃料ブリケットの改良と普及方法」
    国際農林水産業研究センター 木村健一郎
    中国四国農政局 爲季 誠
    森林研究・整備機構森林整備センター 折笠世紀
    国際農林水産業研究センター 松本武司
    (一社)全日本畜産経営者協会 神谷康雄

土壌劣化抑制のための保全農業の可能性」
    新潟大学農学部 粟生田忠雄
    新潟大学大学院自然科学研究科 バナキナウ ウィヤオ