学会誌 第89巻第6号 研究・教育を担う人材育成と学術評価のあり方(2021年6月発行)

◆小特集の趣旨
 ここ数年,学会活動の大きなテーマは「人材確保と人材育成」です。これまでに,若手人材の確保のために
学会大会講演会時における各種企画やスチューデントセッションの実施,学生会員の2020 年度会費等の無料
化,農学部系学生向けの LINE 公式アカウントの開設,土地改良建設協会との「農業農村工学系の技術者育成,
確保に向けた連携協定書」の締結,若手研究者育成のための学術基金の拡充など多くの取組みがなされ,今後
効果が期待されています。同時に,人材育成の主要な場である大学組織内において農業農村工学分野が適切に
評価される取組みも急務です。
 近年,学部や修士課程の学生確保は一定の水準を維持しています。しかし,当分野における博士課程の学生
数は減少傾向です。そして,最近重要視されている社会人の大学院生数も当分野では伸び悩んでいます。この
原因は,魅力ある課題の提示,多様な就職先の確保と提示,財政的な支援などが十分ではないと言われていま
す。また,大学組織内における当分野の存在価値の低下は,今後の研究や高等教育を担う人材育成の面で大き
な課題です。学術振興の視点に立てば,実学が重視される当分野においても基礎的,先端的な研究は大学内の
実績・業績向上のために不可欠です。また大学では,インパクトファクターのある国際誌への掲載実績に重点
がおかれ,水土の知や農業農村工学会論文集などの,和文中心で,オンライン学術データベース(Web of
Science や Scopus など)への登録がされていない論文の業績評価説明に苦慮する実態も報告されています。
 こうした状況を踏まえ本小特集では,農業農村工学の果たすべき社会的使命と人材育成の必要性などを踏ま
え,当分野の実績・業績が適切に評価されるための戦略や人材育成のあり方等についての関連報文を紹介しま
す。また,博士を取得して現在,教育,研究,技術などの現場で活躍されている方々に,本人の体験をもとに
博士取得の意味,これを活かした社会での活動体験,博士課程制度の忌憚のない問題点と改善案についての特
別寄稿を掲載しています。

◆展 望 「研究・教育を担う人材育成と学術評価」農研機構農村工学研究部門 藤原信好

◆小特集報文
博士課程の学生との交流を通じた研究室の活性化」
   岐阜大学応用生物科学部 乃田啓吾
   近畿大学農学部 木村匡臣
   東京大学大学院農学生命科学研究科 浅田洋平・謝 文鵬
   近畿大学農学部 松野 裕

実践型教育の現状と産学官連携による人材育成の取組み」
   福島大学農学群食農学類 申 文浩

開発途上地域における農業研究と求められる人材」
   国際農林水産業研究センター 進藤惣治・泉 太郎

◆小特集関連特別寄稿 博士号取得者からの提案
博士後期課程から公設試験場へのキャリアパス」
   北海道立総合研究機構中央農業試験場 小杉重順

フィールドサイエンティストの育成意義と異分野との交流」
   国立環境研究所福島地域協働研究拠点 辻 英樹

学生への卒業研究指導を通して得た気づき」
   北里大学獣医学部 島本由麻

私にとっての博士号取得の動機と意義」
   (一社)地域環境資源センター 草光紀子

農業土木コンサルタント業務での博士活用の課題と提案」
   (株)三祐コンサルタンツ 伊藤夕樹

博士課程と建設コンサルタントの私」
   NTC コンサルタンツ(株) 長岡誠也

農業農村工学の人材育成に望むこと」
   (株)安藤・間建設本部土木技術統括部土木設計部 塚田泰博

社会人から目指した研究者への道」
   農研機構農村工学研究部門施設工学研究領域 泉 明良

“高専発高専行”の大学院生活」
   松江工業高等専門学校環境・建設工学科 周藤将司

行政職としての博士課程取得の意義」
   内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 金子武将

地方国立大学出身の学位取得者のキャリアパス」
   国際農林水産業研究センター 岡本 健