学会誌 第88巻第11号 農業水利施設における外来生物対策(2020年11月発行)

◆小特集の趣旨
 外来生物は,生態系に深刻な影響を及ぼす驚異として,国際的には平成4 年の国連環境開発会議において生
物の多様性に関する条約が採択されました。わが国では生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国の基本
的な計画である「生物多様性国家戦略」が平成7 年に策定され,4 度の見直しにより現行は「生物多様性国家
戦略2012-2020」が平成24 年に策定されています。また,「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に
関する法律」が平成16 年に制定されるなど,さまざまな対策が進められています。農林水産省においても平
成20 年3 月に「外来生物対策指針」を策定,平成27 年3 月には環境省および国土交通省と共同で「外来種被
害防止行動計画」を策定するなど種々の対応を進めています。
 外来生物の影響は単に生態系へ影響を与えるのみならず,さまざまな被害が生じる恐れがあります。農業に
おいては食害・病害・交雑・競争による作物への影響のほか,水路やため池等の水利施設への繁茂・定着によ
る通水阻害や水質悪化,耕地への外来種の侵入による営農活動の阻害などが生じています。
 外来生物は,国際化が進み交通の利便性も増して移動・侵入する機会が多くなっています。作物の品種改良
や園芸作物としての利用,家畜やペットといった利用目的で積極的に導入されたものが野生化して結果的に悪
影響を及ぼすケース等もあり,その侵入を完全に防ぐことは困難です。また,すでに多大な被害を及ぼし,根
絶が不可能なほど定着してしまっている種や事例も見られます。
 外来生物の対策には多大な費用・労力を要することもあるうえ,一度侵入されると抜本的な対策は難しく,
施設の特性や財政状況といった地域の実情がある中,可能な範囲で個々に対応している実情があります。
そこで,本小特集では農業水利施設に影響する外来生物に関する新しい知見や対策技術,効率的・継続的に
実施可能な対策事例など,有用な情報を共有すべく,幅広い方からの報文を紹介します。

◆展 望 「水利施設の管理における特定外来生物対策」(独)水資源機構千葉用水総合管理所 宮下武士

◆小特集報文
農業被害をもたらす侵略的外来水草の対策と課題」
     農研機構農村工学研究部門 嶺田拓也
     滋賀県立琵琶湖博物館 中井克樹
     千葉県立中央博物館 林 紀男
     エコロジー研究所 丸井英幹

遮光ネットによる農業用水路のオオカナダモ駆除効果の検討」
     東京農業大学地域環境科学部地域創成科学科 浅井俊光・藤川智紀・竹内 康
     東京農業大学名誉教授 中村好男
     東京農業大学地域環境科学部地域創成科学科 鈴木伸一

ブラジルチドメグサの物理的防除法の検討および水生動物の生息空間としての実態」
     岡山大学大学院環境生命科学研究科 中嶋佳貴
     農研機構農村工学研究部門 藤井清佳
     岡山県立大学 沖 陽子
     岡山大学大学院環境生命科学研究科 中田和義

北海道の水路法面保全と外来草本植物の適正管理への留意点」
     帯広畜産大学 宗岡寿美・木村賢人・辻  修