学会誌 第86巻第10号 SDGsと農業農村工学(2018年10月発行)

◆小特集の趣旨
 2001年に国連で策定されたミレニアム開発目標(MDGs)は,発展途上国向けの開発目標として,2015 年を期限として8 つの目標が設定されました。結果として,MDGsは一定の成果を達成しましたが,未達成の課題も残されました。
 MDGs の後継として,2015 年9 月に国連本部で開催された「国連持続可能な開発サミット」において,「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030 アジェンダ」が全会一致で採択されました。SDGs(Sustainable Development Goals,持続可能な開発目標)は,このアジェンダに記載された2016 年から2030 年までの国際目標であり,先進国を含む国際社会全体の開発目標として,持続可能な世界を実現するための17 のグローバル目標(分野別目標)と,169 のターゲット(達成基準)から構成されています。SDGs の重要なポイントは,格差問題,持続可能な生産や消費,気候変動対策など,先進国が自国内で取り組むべき課題を含むため,発展途上国に限定しない普遍的な目標と位置づけられている点です。
 SDGsが設定するグローバル目標や達成基準の中には,水・衛生(目標6),インフラ,産業化,イノベーション(目標9),持続可能な生産と消費(目標12)など,農業農村工学がこれまでも関与し,また今後も主導的に取り組むべきものが多数あります。
 本小特集では,農業農村工学の分野が,①MDGs に対して過去どのような貢献をしてきたのか,②SDGs に対してどのような寄与が期待されているのかを俯瞰します。さらに,農業農村工学の分野の③今後のSDGs に対する取組みの具体化,④SDGs に関わる人材育成,などについて,取組み事例や課題・知見について,技術者・研究者・行政などのさまざまな立場からご紹介を頂き,情報共有のみならず,当分野の積極的な関与と今後の展開を図るための手がかりとなることを目的とします。

◆展 望 「SDGs 達成のための「統合的」な農業農村工学分野の役割
     学習院女子大学国際文化交流学部 荘林幹太郎

◆小特集報文
SDGs 達成に向けた農業用水の役割
     内閣官房副長官補室 足立 徹

栄養バランスからみたマダガスカル国の農業農村開発戦略
     国際農林水産業研究センター 白鳥佐紀子
     前千葉大学大学院医学薬学府公衆衛生学 西出朱美
     国際農林水産業研究センター 土居邦弘

マラウイ国の人材育成による持続可能な小規模灌漑農業開発の協力アプローチ
     元(独)国際協力機構 金森秀行

小島嶼開発途上国でのSDGs 達成に向けた農業農村工学的課題
     東京大学大学院農学生命科学研究科 木村匡臣
     パラオ共和国コロール州廃棄物管理事務所 藤 勝雄
     東京大学大学院工学系研究科 飯田晶子
     岐阜大学応用生物科学部 乃田啓吾
     宇都宮大学農学部 大澤和敏

開発途上国で持続可能な小規模水源施設を実現するために
     島根大学学術研究院環境システム科学系 石井将幸
     島根大学名誉教授 長束 勇
     高知大学教育研究部自然科学系農学部門 佐藤周之
     愛媛大学農学部 佐藤嘉展
     香川高等専門学校建設環境工学科 長谷川雄基
     島根大学学術研究院環境システム科学系 上野和広

メタン発酵システム構築によるSDGs 達成への貢献
     農研機構農村工学研究部門 中村真人・山岡 賢
     農研機構本部 折立文子
     (一社)地域環境資源センター 柴田浩彦

テレメトリーシステムの海外展開を通じてSDGs に貢献する
     (株)みどり工学研究所 濱田洋平・繁永幸久
     NPO 法人北海道水文気候研究所 高橋英紀

SATREPS 成果の社会実装に向けたコンサルタント参画の提案
     NTC インターナショナル(株)  小山知昭
     岐阜大学応用生物科学部 乃田啓吾
     東京農工大学農学部 福田信二
     NTC インターナショナル(株)  小林維円