学会長からのご挨拶

>> 学会長からのご挨拶

公益社団法人 農業農村工学会 第30期会長  藤原 正幸 (Fujihara Masayuki)

 令和8(2026)年5 月28 日開催の農業農村工学会第289 回理事会において,第30 期会長に選任されました。会員各位ならびに関係諸団体のご支援に深く感謝申し上げますとともに,副会長,各理事,学会事務局の皆様のご協力を得ながら,本学会の発展に向けて職責を果たしてまいる所存です。
 農業農村工学は,「農業の生産性向上と農村の生活環境の整備,農業農村にかかわる地域全体の持続的発展を図るため,水・土・生態系などの地域資源を適切に管理し,人と自然の調和を重視しながら循環型社会の形成に寄与する科学技術」であります。本学会は,昭和4(1929)年に「農業土木学会」として創立されて以来,農業生産基盤整備,農村環境整備,水資源管理,防災・減災,地域資源保全など幅広い分野において,研究者・技術者の学術交流と技術発展を支えてまいりました。平成19(2007)年には,対象領域の拡大と社会的役割の変化を踏まえ,「農業農村工学会」へと名称を改め,さらに平成24(2012)年には公益社団法人へ移行し,「農業農村工学の進歩と研究者・技術者の資質向上を通じて社会の発展に寄与する」ことを目的として活動を展開しております。2029 年の創立100 周年を目前に控え,本学会が果たすべき役割は一層大きくなっています。

 現在,わが国の農業・農村を取り巻く状況は大きく変化しています。中東情勢等資源・エネルギー問題,それに関連した食料安全保障の強化,気候変動への対応,人口減少と高齢化の進行,インフラの老朽化,地域コミュニティの維持など,多くの課題が複合的に進行しています。こうした中,令和7(2025)年9 月には,新たな「土地改良長期計画(令和7~11 年度)」が閣議決定されました。本計画では,農地の大区画化やスマート農業に対応した基盤整備,農業水利施設の戦略的保全管理,防災・減災対策,中山間地域等における省力化整備,さらには農村の価値や魅力の創出などが重要な政策課題として位置付けられています。
 また,現在,農林水産省で私が委員長を務めております食料・農業・農村政策審議会農業農村振興整備部会技術小委員会において,この土地改良長期計画を技術面から支えるため,「農業農村整備に関する技術開発計画」の検討を進めています。本計画の実効性を高めるため,この農業構造転換集中対策期間を,「農業・農村の未来を支えるインフラ技術の確立」に向けた転換期と位置付け,産学官の連携により,AI 等のデジタル技術のフル活用,新技術の迅速な導入に向けた取組みの推進,人材の確保・育成を通じて,技術開発および普及の加速化を図ることが重要になると考えています。

 農業農村工学には,こうした政策課題を具体的な技術として社会実装へ結び付け,持続可能な農業・農村を支える役割が強く求められています。特に,スマート農業を支える農地・水管理システムの高度化,老朽化するインフラの戦略的更新,気候変動に対応した防災・減災技術の高度化,中山間地域を含む農村振興など,本学会が果たすべき役割はますます大きくなり,食料安全保障面における責任の重さがますます増していると考えています。
 そのためには,AI,IoT,ロボティクス,リモートセンシング,デジタルツインなど,他分野における技術革新を農業農村整備分野へ適切に取り込むとともに,農業・農村特有の条件に適応させる学術的・技術的知見が重要となります。さらに,地域条件や現場課題に応じて社会実装へつなげていくためには,産学官の連携強化が不可欠です。本学会には,分野横断的な連携を促進し,多様な主体をつなぐプラットフォームとしての役割が強く期待されていると考えています。
 加えて,本学会の役割は国内にとどまるものではありません。気候変動,水資源問題,食料問題,生物多様性保全などは国際的課題であり,農業農村工学分野においても国際連携の重要性が高まっています。本学会はこれまでも,アジアモンスーン地域を中心とした国際交流や研究協力を進めてまいりましたが,今後はさらに,国際学会との連携強化,若手研究者・技術者の国際活動支援,海外研究ネットワークへの参画などを進めていく必要があります。

 一方で,こうした期待を支える人材基盤は厳しさを増しています。少子化に伴う大学再編や教員数の減少,博士課程進学者の減少などにより,農業農村工学分野の教育研究体制は大きな転換期を迎えています。このままでは,将来の研究者・教育者のみならず,行政や民間企業を支える技術者人材の確保にも深刻な影響を及ぼすことが懸念されます。本学会としても,若手人材の育成,学生会員の拡大,教育内容の高度化,社会人教育やリカレント教育への対応などに積極的に取り組む必要があります。
 農業農村工学は,「農地・水・農村空間,丸ごとを工学的にデザインし,整備し,高度化する分野」です。この分野は,これまでも日本の食料供給基盤,国土強靭化,農村振興,環境保全などに貢献し,わが国の基盤を支える重要な学術・技術分野です。社会環境が大きく変化する時代において,本学会には,「不易流行」の精神のもと,新たな課題に対応する知を創出し,現場実装へと結びつける役割が強く求められています。第30 期においては,産学官の連携強化と学会活動のさらなる活性化を図りながら,次代を担う人材育成と学術・技術の発展に努めてまいります。
 会員の皆様方には,今後とも本学会活動へのより一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。