学会長からのご挨拶

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公益社団法人 農業農村工学会 第29期会長  西村 拓 (Nishimura Taku)

 令和6(2024)年5月29日開催の農業農村工学会第280 回理事会において,第29期会長に選ばれました。会員各位・諸団体のご支援,副会長を始めとする理事,ならびに学会事務局各位のご協力を得て,その職務に当たる所存であります。
 農業農村工学とは「農業の生産性向上と農村の生活環境の整備,農業農村にかかわる中小都市も含めた地域全体の持続的発展を図るため,循環を基調とした社会を構築し,水・土などの地域資源を,人と自然の調和,環境への配慮を重視して合理的に管理する科学技術」と定義されています。その科学技術を担う農業農村工学会は,昭和4(1929)年に「農業土木学会」として創立されて以来,農業生産基盤と農村生活環境に関する研究者や技術者の活動の場となってきました。平成19(2007)年には,対象や手法の拡がりと多様化に合わせて,名称を現在の「農業農村工学会」に変更しました。平成24(2012)年には,社団法人から公益社団法人に組織形態を変更し,「農業農村工学の進歩及び農業農村工学に関わる研究者・技術者の資質向上を図り,学術・技術の振興と社会の発展に寄与する」ことを目標にさまざまな活動を展開しています。現在2029年の100周年に向けて,さまざまな取組みを進めています。
 さて,今年5月29日に改正食料・農業・農村基本法が成立しました。「食料安全保障の抜本的な強化」,「環境と調和のとれた産業への転換」,「人口減少下における農業生産の維持・発展と農村の地域コミュニティの維持」の実現を目指して,基本理念の見直しと,関連する基本的施策等を定めています。
 この改正を受けて,今後は土地改良法の改正,さらには次期土地改良長期計画の策定に向けて,ますます農業農村工学の役割は大きくなると考えています。基本的な方向としては,農業生産基盤の整備・保全では,①スマート農業や需要に応じた生産に対応した基盤整備,②農業生産の基盤の保全管理,③防災・減災,国土強靱化などが,また,農村の振興(農村の活性化)では,①農村の「しごとづくり」の強化,②農村の持続的な「土地利用」の推進,③鳥獣の効率的な捕獲や侵入防止対策などが,さらに多面的機能の発揮では,①中山間地域等直接支払,②多面的機能支払交付金などの取組みに貢献する技術開発が求められると考えています。
 ポストコロナの時代に入り,我々の生活スタイルも変わり,従来の都市一極集中型の居住形態や人が密集する働き方からの転換を促し,リモートワーク,遠隔操作等の技術のニーズを高めています。また,IoT,ロボット,AI,ビッグデータといった技術の発展は,技術開発の高度化や手法の多様化を促し,開発から実装までのタイムスパンを縮めています。こうした現在の技術開発の発展を農業農村整備分野においても取り入れていくためには,これまで農業に関わりのなかった幅広い分野・世代の人材が参画できる環境を作ることが必要で,他分野も含めたさまざまな連携を強化していくことが重要です。加えて,近年のデジタル技術は急速に発展しており,農業農村整備事業の実施に当たっても,スマート農業に代表される農業のデジタルトランスフォーメーションにより工程そのものを大きく変え,働き方の改善を含め生産性を高めていくことが必要となっています。
 さらに,学会の活動を強化する分野として「学術と技術の国際交流」があります。現在PAWEES の理事学会として貢献していますが,学問分野の学際化が進む中,今後は国際的な分野で活躍を促進する対策が必要と考えています。たとえば,国際土壌科学連合(IUSS),CIGR(国際農業工学会),国際地理学連合(IGU),日本地球惑星科学連合(JpGU),フューチャー・アース,生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES),TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などにおいて農業農村工学の果たす役割を明確にして取り組む必要があると考えています。
 このような技術開発の新たなニーズや国際化の中で,人材の確保・育成が大きな課題となっています。少子化等に伴う大学再編の影響から大学の教員は減少し続けており,また,大学の教員になる博士も少ないため,農業農村工学の教育体制は厳しい状況にあります。現状のままでは,農業農村整備事業を担う国や都道府県の公務員,民間技術者の育成のみならず,研究者や教員の確保も困難になると思料されます。これについて,令和6(2024)年3 月13 日に開催した理事会において,中期的な視点から持続可能な農業農村工学教育のあり方を検討するワーキンググループを設置し,この問題に取り組むことが決定されました。
 第29 期の学会全体の運営方針としては,ポストコロナを踏まえた,持続可能な農業農村工学研究と教育の確立のため,国際化を含めた次代を担う人材の確保と育成を進めていきたいと考えております。そのため,産官学の新たな連携と学会活動の一層の活性化が必要と考えており,役員一同努めてまいる所存であります。
 会員の皆様方には,より一層のご協力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。