学会誌 86巻8号 湖沼の水環境と農業とのかかわり(2018年6月発行)

◆小特集の趣旨
 湖沼などの閉鎖性水域の水環境については,水質汚濁防止法やその特別法である湖沼水質保全特別措置法などに基づき,
都道府県を中心に対策が講じられてきました。それは,流域下水道整備,工場からの排水規制,農業排水対策など,あらゆ
る側面からの努力の積み重ねでした。経済成長の鈍化の影響もあるとはいえ,河川の水質は改善されたという認識が広く持
たれています。他方,湖沼などの水質改善は頭打ちであり,一部には近年悪化するケースも見られます。さらに,これまで
あまりみられなかった種類の藻の大量発生や,難分解性有機物の蓄積など,新たな課題も浮かび上がってきています。
 農業にとって湖沼は主要な用水源であり,また,排水の排出先であるために農業が汚染源になっているという両面的かつ
深い関係にあります。このため,水環境の保全にかかる農業面での研究は長期にわたりなされてきましたし,循環灌漑など
農業排水からの水環境への負荷を軽減する対策も種々実施されてきました。それらの最前線は今,どういう状況になってい
るのでしょうか。2018 年10 月には茨城県つくば市で第17 回世界湖沼会議が開催されます。湖沼の水環境と農業とのかか
わりについて改めて考えてみる良い契機にしたいと思います。
 そこで,学会誌第86 巻第8 号では,「湖沼の水環境と農業とのかかわり」と題する小特集を組むこととしました。ダム湖
やため池も含めた湖沼の水環境について,行政的な取組みや保全対策の先進的な事例,物質循環も含めた水環境保全にかか
る研究の現状や新たな課題などに関する報文を広く紹介します。

◆展 望 「湖沼やため池を利する農業用排水システム,生み出される生態系サービス
     大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 堀野治彦

◆小特集
印旛沼における循環灌漑の水質保全効果の評価
     (株)日水コン 永渕正夫・岡田祐也
     関東農政局印旛沼二期農業水利事業所 皆川裕樹

新利根川土地改良区における循環灌漑導入に向けたEC の解析
     東京農工大学大学院農学研究院 加藤 亮
     東京農工大学大学院農学府 池田周平
     関東農政局利根川水系土地改良調査管理事務所 直江次男

印旛沼地域に侵入・定着する外来水草ナガエツルノゲイトウ
     農研機構農村工学研究部門 嶺田拓也
     (独)水資源機構 佐々木亨・市川康之
     農研機構農業環境変動研究センター 芝池博幸
     鹿島川土地改良区 高橋 修
     関東農政局印旛沼二期農業水利事業所 皆川裕樹
     東邦大学理学部(現八千代エンジニヤリング(株)) 鈴木広美
     農研機構農村工学研究部門 山岡 賢

水草の繁茂が湖沼・ため池の水質に及ぼす影響
     宮城大学食産業学部環境システム学科 原田茂樹
     内外エンジニアリング(株)  佐藤清也
     国立環境研究所地域環境研究センター 越川 海

農業用ダムにおける藻類の深度分布と水質管理
     農研機構農村工学研究部門 濵田康治・吉永育生・人見忠良・久保田富次郎・白谷栄作

小規模な湖沼の内部波特性のスペクトル解析と適応事例
     農研機構農村工学研究部門 木村延明・桐 博英

奈良大和平野ため池群の水質評価と水環境保全に向けた展望
     近畿大学農学部環境管理学科 松野 裕
     奈良県農林部 貴志容子・中野涼太
     近畿大学農学部環境管理学科 北川忠生・八丁信正

肥培灌漑施設の新設と河川水中の全窒素濃度の改善効果
     東京農業大学地域環境科学部 山崎由理
     帯広畜産大学 宗岡寿美・木村賢人・辻 修