学会誌 第89巻第8号 記録的な豪雨に対応する農業農村地域の役割(2021年8月発行)

◆小特集の趣旨
 近年の記録的豪雨は,既存の治水施設や排水施設では災害を防ぎきれない事象を発生させ人命や農業農村に
甚大な被害を与えています。さらに,中山間地域などではこれらの災害を契機として地域の存在が危ぶまれる
状況も生じています。第 89 巻第 8 号では,豪雨や洪水に対する点的な対応策として「農業用ダムにおける洪
水調節機能の増進方策」を企画しました。一方,国土の多くを占める農地や地域に面的に点在するため池など
の洪水緩和・調節機能の発揮などにも大きな期待がかけられています。その中で,水田の洪水低減機能の増進
のための「田んぼダム」の取組みは,社会実装の段階までに発展しています。
 また,2020 年 7 月の社会資本整備審議会の答申では,気候変動を踏まえ社会全体で洪水に備える水防災意
識社会の構築やあらゆる関係者が協働して流域全体で行う「流域治水」への転換の推進などが示されています。
 そこで,本小特集では流域に広く,また多数分布する農地やため池などの洪水防止機能の可能性やその限界,
さらなる豪雨災害に対する機能向上の方策および国土強靭化への貢献策,これに関連する農業者や農業側の意
識などについて,これまで解明された知見,開発された技術とその適用,今後の研究方向などに関する報文を
紹介します。

◆展 望
流域治水の今後の展望
    中国四国農政局 局長 塩屋俊一

◆小特集報文
「令和2年7月豪雨」に見た国土強靭化に向けた今後の技術開発
    農研機構農村工学研究部門 川邉翔平・森 充広
    北陸農政局信濃川水系土地改良調査管理事務所 高橋良次
    農研機構農村工学研究部門 金森拓也
     
降雨特性を踏まえたため池の洪水調節効果の評価
    農研機構農村工学研究部門 吉迫 宏・眞木 陸・正田大輔・小嶋 創・竹村武士

圃場スケールでの田んぼダムによる豪雨時の雨水貯留機能
    福岡県農林業総合試験場 持永 亮
    福岡県農林水産部 樋口俊輔
    農研機構農村工学研究部門 北川 巌・皆川裕樹

平成30年7月豪雨によるため池への土砂流入時の被災要因
    農研機構農村工学研究部門 正田大輔・吉迫 宏・小嶋 創

農業用ダムの諸元に基づく事前放流の治水効果の定量化
    農研機構農村工学研究部門 相原星哉・吉田武郎
    前(一財)日本水土総合研究所 川本陽介
    前農林水産省農村振興局 伊藤久司
    農林水産省農村振興局 上山泰宏

田んぼダム流水型落水量調整板の流出抑制効果の評価
    農林水産省 岩垣浩志
    九州大学大学院農学研究院 谷口智之
    福岡県農林業総合試験場 持永 亮
    九州大学大学院農学研究院 凌 祥之

既設水田排水マス用の機能分離型落水量調整装置の開発
    宮城県北部地方振興事務所 小泉慶雄
    宮城県古川農業試験場 大野菜穂子
    東北興商(株) 蔵本修一
    新潟大学自然科学系(農学部) 宮津 進
    宮城県大河原地方振興事務所 吉川 弘