◆小特集の趣旨
近年,自然災害が頻発化,激甚化してきており,2016年は熊本地震,北海道・東北豪雨,鳥取県中部地震など,集中豪雨や地震により各地で農業・農業用施設に甚大な被害が生じました。さらに,今後,南海トラフ巨大地震や首都直下地震など,東日本大震災を上まわる規模の自然災害の発生も懸念されています。
他方,人口減少・高齢化や農業構造の変化などが進む農村地域では,農村協働力が脆弱化し,共同活動を営んできた集落の弱体化,施設の管理や防災の担い手の減少により,地域の防災・減災力の低下が都市部より深刻化しています。
このような中,平成28年8月24日に閣議決定された新たな土地改良長期計画では,「社会資本の継承・新たな価値の創出と農村協働力の深化」を基本理念に掲げ,政策課題の一つである「強くてしなやかな農業・農村」では,農業水利施設の老朽化対策や耐震化等のハード対策のほか,農村協働力を活用したソフト対策を組み合わせ,地域の防災・減災力の向上を促進するとしています。
頻発化・激甚化する自然災害に対し,時間や費用を要するハード対策だけでは限界があり,「想定外」,「最悪の事態」を想定して地域のコミュニティを活用した防災・減災活動などのソフト対策の推進が一層必要となっています。そのためには,農村協働力の維持・向上を図りつつ,被災状況の迅速かつ的確な把握,防災情報の伝達体制の整備,地域住民の防災意識の向上,ハザードマップの作成,ダムやため池などの基幹水利施設のモニタリング体制の構築や災害時のリスク評価,迅速な復旧活動,業務継続計画(BCP)の策定などに係る知見やノウハウの蓄積と技術開発が重要となります。
そこでこれら「農村協働力」を活かした防災・減災力の強化に関する取組事例や課題・知見,調査・研究についての報文を紹介します。
◆展 望 「前災から学ぶこと」
帯広畜産大学 辻 修
◆小特集報文
「我がこと防災意識の醸成による地域防災力の維持・向上」
農研機構農村工学研究部門 重岡 徹・吉迫 宏・福本昌人
「水田の有する多面的機能を活用した地域防災の取組み」
(一社)農村振興センターみつけ 椿 一雅
「洪水調整機能向上に向けたため池群の用水調整手法の提案」
農研機構農村工学研究部門施設工学研究領域 吉迫 宏
農林水産省農村振興局整備部防災課 吉田 明
農林水産省大臣官房政策課 草 大輔
(一財)日本水土総合研究所 嶺岸憲一
NTCコンサルタンツ(株)東京支社技術部 出井宏樹
「直列ため池の連鎖決壊時における氾濫解析手法の提案」
農研機構農村工学研究部門 正田大輔・堀 俊和・吉迫 宏
ニタコンサルタント(株) 安芸浩資・長尾慎一・三好 学
「谷根広田地すべりによる圃場整備地区の被災と復旧」
新潟大学農学部 稲葉一成
新潟県魚沼地域振興局 沖田 悟
新潟県糸魚川地域振興局 神蔵直樹
新潟県新発田地域振興局 峰村雅臣
新潟県農地部 傳法谷英彰
新潟大学農学部 粟生田忠雄・鈴木哲也