◆小特集の趣旨
シカ,イノシシなどの野生動物による農作物被害金額は毎年約200億円程度で高止まっています。鳥獣害は営農意欲の減退を招き,とりわけ中山間地域では,耕作放棄,離農の増加という負の連鎖を通じてさらなる鳥獣害の悪化を招くとされています。
鳥獣害対策は被害の最前線である市町村が中心となって進められています。現在,鳥獣害が認められる1,500市町村のうち1,093市町村に鳥獣被害対策実施隊が設置されています。国は平成35年度までにニホンジカ,イノシシの個体数を半減させることを目指し,被害対策の取組みや周辺の施設整備などを支援しています。
鳥獣害対策は,個体数調整,被害防除および生息環境管理を行うことが重要です。このような取組みは集落ぐるみで実施することが基本ですが,鳥獣害が発生している市町村の多くは過疎化・高齢化が進んでいるため,活動が停滞している集落も多いと推察されます。またハクビシンやアライグマなど外来生物による食害の急増も看過できない課題です。これらには集落の地域資源管理能力が低下したことが関わっていると考えられます。
学会誌第86巻第5号では,獣害対策に関する先進的な事例や,地域での取組み方策,対策の担い手やその支援などの提案,ジビエ利用の展望など,関連する調査や研究,取組みに関する報文を広く紹介します。
◆展 望
「鳥獣被害対策とジビエ利用拡大について考える」
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構総括調整役
(前農林水産省農村振興局農村環境課鳥獣対策室長)
田中健一
◆小特集報文
「サルの集落ぐるみの追払いを阻害する物理的要因と改善策」
岡山大学大学院環境生命科学研究科 九鬼康彰
エーザイ(株) 青木 茜
愛媛大学大学院農学研究科 武山絵美
「イノシシの生息地利用が示唆する獣害対策としての環境管理」
農研機構中央農業研究センター 竹内正彦
山形大学農学部 斎藤昌幸
「地域ぐるみ鳥獣害対策のための「集落」の合意形成」
農研機構農村工学研究部門 重岡 徹・嶺田拓也
「青森県のシカ被害の未然防止対策に向けた担い手の意識調査」
北里大学獣医学部 髙松利恵子・岡田あゆみ・落合博之・長利 洋
明治大学農学部 服部俊宏
「狩猟免許取得後の支援制度の実態」
明治大学大学院農学研究科 牧野祥奈
明治大学農学部 服部俊宏
「鳥獣害対策を通じたジビエ利用の課題と展望」
農研機構農村工学研究部門 唐崎卓也・成岡道男・芦田敏文
「都市在住の狩猟者を鳥獣被害対策に活用するための施策」
農研機構農村工学研究部門地域資源工学研究領域資源評価ユニット 成岡道男