学会誌 第90巻第9号 みどりの食料システム戦略に貢献する農業農村工学(2022年9月発行)

◆小特集の趣旨
 わが国の食料・農林水産業は,気候変動による災害の激甚化,生産者の減少・高齢化の進行,地域コミュニ
ティの衰退などの課題に直面しています。また,SDGs,生物多様性,脱炭素社会の実現など環境を重視する
動きが国内外で加速しており,食料・農林水産業においてもこれらに的確に対応する必要があります。
 このような背景を受けて,農林水産省では,2021 年5 月に食料・農林水産業における生産力向上と持続性
の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を策定しました。本戦略では2040 年まで
に革新的な技術・生産体系を開発し,2050 年を目標年次とした社会実装により,化学農薬・化学肥料の使用
量低減,有機農業の取組み面積の拡大,カーボンニュートラルへの対応,スマート技術を活用した労働生産性
の向上・省人化・自動化などを実現し,持続可能な食料システムの構築を目指しています。具体的な取組みに
は農業農村工学の研究開発分野と関連が深い項目が多く,スマート農業技術,再生可能エネルギー利用,地域
資源の活用,土壌中への炭素貯留,省エネ型施設園芸設備などがあります。また,社会実装には地域の実情に
応じた産学官と現場の連携を重要視しており,農業農村工学が長年大事にしてきた考え方と一致しています。
 そこで,革新的な技術・生産体系の実現に向け,農業農村工学における研究・開発事例や,技術の社会実装
への具体的な取組みに関する小特集を企画しました。みどりの食料システム戦略に対して農業農村工学がどの
ように貢献するかについて議論を深める特集号としたいと思います。2050 年を見据えた今後の中長期的な技
術開発と社会実装の展望,農業農村工学で蓄積してきた知見の活用や持続的な改良,また社会実装に必要なブ
レークスルーなど,幅広く報文を紹介します。 

◆展 望
みどりの食料システム戦略を実現する技術開発
    農研機構農村工学研究部門資源利用研究領域 遠藤和子

◆小特集報文
農業残さ燃焼用バーナーの利用と下水道由来肥料の活用
    北王コンサルタント(株) 石川健司
    (株)武田鉄工所 佐藤寿樹
    (株)データベース 柴田桂子
    北王農林(株) 藤原 昇
     
バイオ炭と堆肥の併用施用が温室効果ガス排出と炭素貯留に及ぼす影響
    東京農業大学地域環境科学部 中島 亨
    全国農業組合連合会 日下部貴大
    東京農業大学農学部 中塚博子
    東京農業大学応用生物科学部 大島宏行

みどりの食料システム戦略におけるメタン発酵の貢献
    農研機構農村工学研究部門 中村真人・折立文子
    (一社)地域環境資源センター 柴田浩彦・蒲地紀幸
    京都大学大学院工学研究科 日高 平
    (一社)日本有機資源協会 柚山義人
    農研機構農村工学研究部門 北川 巌

集排汚泥およびバイオ液肥の利活用を伴う小規模メタン発酵システムの導入
    (一社)地域環境資源センター 蒲地紀幸
    農研機構農村工学研究部門 中村真人・折立文子
    京都大学大学院農学研究科 大土井克明
    (一社)地域環境資源センター 柴田浩彦・是川和宏・大塚直輝
     
農村に眠る未利用熱の利用促進に関する研究
    農研機構農村工学研究部門 三木昂史・岩田幸良・北川 巌・後藤眞宏・福田浩二・石井雅久

生態系サービス評価に向けた環境データ集積と統合化に関する研究
    東京農工大学 加藤 亮
    農林水産省農林水産政策研究所 國井大輔
    東京大学 橋本 禅
    新潟大学 吉川夏樹
    京都大学 東樹宏和
    東京都立大学 大澤剛士
    東京農工大学 杉原 創
    政策研究大学院大学 神井弘之

みどりの食料システム戦略と海外農業農村開発協力
    農林水産省農村振興局整備部設計課海外土地改良技術室 北田裕道
    国際農林水産業研究センター 泉 太郎

石垣島からネグロス島へ,みどり戦略の提唱に向けた取組み
    国際農林水産業研究センター 岡 直子・安西俊彦・竹中浩一・岡本 健・寺島義文・奥津智之・菊地哲郎

アジアモンスーン地域での農地土壌炭素貯留の課題と展開方向
    国際農林水産業研究センター 渡辺 守・松本成夫・泉 太郎