学会誌 第90巻第6号 流域治水の機能強化に向けた中山間地域の利活用と維持管理(2022年6月発行)

◆小特集の趣旨
 近年,予測の難しい局所的な集中豪雨や線状降水帯による長時間降水などによって自然災害が頻発し,農地・
農業水利施設等においても甚大な被害が報告されています。これは農業生産基盤や農村住民の生活基盤を脅か
す深刻な問題となっており,たとえば,湛水被害等のリスクに対応した農地および周辺地域の排水対策の必要
性が高まっています。
 2021 年 3 月に閣議決定された土地改良長期計画では,農地や農業水利施設を活用した「流域治水」の取組
みを推進することが土地改良事業を推進する際に考慮すべき事項に挙げられています。したがって,農業農村
工学分野からも「流域治水」の実現や機能強化に向けて,たとえば,現存する農業用ダムやため池の洪水調節機
能の強化,田んぼダムによる下流域の湛水被害の低減,農地のみならず市街地や集落の湛水被害の軽減を実現
する排水機場等の運用,またはそれらの組み合わせを可能とする流域の治水システムの構築が必要と言えます。
 「流域治水」を効果的に進めるためには,特に流域上流部に位置し数多くの小規模ため池群や河川群,農地
群を擁する中山間地域の活用が重要となります。しかし,農業産出額や耕地面積において全国の約4 割を占め,
農業・農村において重要な位置づけにある中山間地域は,超高齢社会となる中で人口減少や耕作放棄地の増加
が進行し,森林,農業・農村の持つ多面的機能の低下が指摘されています。
 そこで本小特集では,特に中山間地域の重要性を改めて考えるきっかけとするため,中山間地域の現状を踏
まえ,「流域治水」を機能させるための農業農村工学分野の役割,その機能を発現させるための中山間地域の
維持管理のあり方に関する報文を紹介します。

◆展 望 「災害復旧分野におけるDX構想
    農林水産省農村振興局整備部防災課長 細井和夫

◆小特集報文
中山間地農業用水路を活用した流域治水の可能性
    三重大学大学院生物資源学研究科 岡島賢治・安瀬地一作
    (株)協和コンサルタンツ 左村 公
    東京大学大学院新領域創成科学研究科 岩田祥子
    農研機構農村工学研究部門 遠藤和子

     
神通川流域の流域治水に向けた灌漑排水分野の取組み
    岐阜大学 乃田啓吾
    中央大学 上野陽平・手計太一
    東京大学 木口雅司・沖 大幹
    (株)たがやす 鈴木耕平・出村沙代

小城市池上地区における遊水地整備に関する住民意識調査
    山口大学大学院創成科学研究科 山本晴彦
    山口大学農学部 辻本ひかり
    山口大学大学院創成科学研究科 兼光直樹

簡易推定法による事前放流の洪水軽減効果が大きいため池の選定
    神戸大学大学院農学研究科 田中丸治哉
    兵庫県 喜田直也
    神戸大学大学院農学研究科 多田明夫