学会誌 第89巻第11号 政策のグリーン化に向けた農業農村整備の新たな展開(2021年11月発行)

◆小特集の趣旨
 グリーンインフラは,アメリカで発案された社会資本整備手法で,自然環境が有する多様な機能をインフラ
整備に活用する考えを基本にしています。一方,農業農村整備における多面的機能の増進や生態系への配慮な
ど日本においては,1990 年代後半から2000 年代初頭より自然環境の多様な機能を考慮する位置づけで農業農
村工学によるインフラ整備が実践されてきたと考えられます。グリーンインフラの定義は,社会資本整備など
において自然環境の多面的機能などの積極的な活用がグリーンインフラの目的であると考えられます。2015
年 8 月に閣議決定された「第二次国土形成計画」でグリーンインフラが政府文書において初めて定義されまし
た。その後,2019 年に国土交通省は,「グリーンインフラ推進戦略」をとりまとめ,社会資本整備や土地利用
などのハード・ソフト両面において,自然環境が有する多様な機能を活用し,持続可能で魅力ある国土・都市・
地域づくりを進める取組みを目指しています。
 また,農林水産省では,2020 年秋より,「みどりの食料システム戦略」の構築を目指し,持続可能な食料シ
ステムの構築の必要性などから,持続的生産体制の構築,環境負荷軽減および持続可能な農山魚村の創造など
の取組みの推進を目指しています。
 農業農村整備は,このような政策のグリーン化に向けた考えの一部をすでに事業に取り入れ,推進してきた
長い実績があると考えられます。さらに,農地整備,中山間地整備および農村地域の住環境整備などにこれら
の手法を新たな視点,コンセプトとして活用することも有効であると考えられます。
 本小特集では,政策のグリーン化に向けて,これまでの農業農村整備における計画・設計・整備手法および
その課題,本手法を取り入れた新たな技術開発の成果や今後の展開方向に関する報文を紹介いたします。

◆展 望 「グリーンインフラとしての農地の展望」  愛媛大学大学院農学研究科 武山絵美

◆小特集報文
生態系サービス概念による農業・農村政策のリフレーミング」
     農林水産省 神井弘之
     東京大学 橋本 禅
     東京農工大学 加藤 亮
     新潟大学 吉川夏樹
     東京都立大学 大澤剛士
     東京農工大学 杉原 創
     京都大学 東樹宏和

生物多様性・生態系サービス分野から農業農村整備政策のグリーン化の方向を探る」
     東京大学 橋本 禅

生態系サービスの持続的活用に向けた農業農村政策のグリーン化」
     農研機構農村工学研究部門 上田達己

ラオス国首都近郊の水環境整備におけるグリーンインフラの実装可能性」
     東京農工大学 加藤 亮
     岐阜大学 乃田啓吾
     近畿大学 木村匡臣
     国際農林水産業研究センター 大倉芙美
     東京農工大学 堀切友紀子
     NTC インターナショナル(株) 小山知昭
     
ベトナムでの間断灌漑の温室効果ガス排出削減効果と普及に向けた課題」
     国際農林水産業研究センター 宇野健一・進藤惣治

集排汚泥を活用した小規模メタン発酵による資源循環の実証」
     (一社)地域環境資源センター 蒲地紀幸
     農研機構農村工学研究部門 中村真人
     京都大学大学院農学研究科 大土井克明
     農研機構農村工学研究部門 折立文子
     (一社)地域環境資源センター 柴田浩彦・大塚直輝

農村地域における生ごみのメタン発酵基質としての特性把握」
     農研機構農村工学研究部門 折立文子・中村真人
     (一社)地域環境資源センター 柴田浩彦・蒲地紀幸
     琉球大学農学部 山岡 賢

漁礁ブロックを用いた藻場再生の取組み」
     宮城大学食産業学群 北辻政文