学会誌 第87巻第9号 農地集積8割の達成後,農村はどのように変化していくのか(2019年9月発行)

◆小特集の趣旨
 国は新たな土地改良長期計画(平成28〜32(2020)年度)に基づき,2023 年までに担い手が利用する農地面
積が全農地面積の8 割を占める政策目標を掲げ,農地集積を推進しています。こうした中で,農地中間管理機
構が創設され5 年経過し,同機構を活用した集積協力金交付事業や機構関連農地整備事業等のさまざまな事業
により,すでに5 割以上の農地が担い手へと集積されています。
 しかし,農地集積の推進とともに離農が進み,土地持ち非農家の増加と農家の高齢化により,農地や農業用
水といった地域資源の維持管理作業への参加者が減少しています。このため,とりわけ水管理や畦畔の草刈り
などの作業にかかる担い手への負担が過度に集中し,労力・時間的な制約から,一定以上の農地の集積・集約
化のペースが減速しています。
 他方,このような制約を経営の複合化,多角化,他業種との連携などによりブレイクスルーし,100 ha を超
えて経営規模を拡大する農業経営体が,平地に限らず中山間においても出現しています。同時に,このような
地域では水管理や生産管理のあり方が従来と異なっており,農業経営体とムラ社会の関わり方についても,大
きな変化が生じていると考えられます。
 本小特集では,このように大きく農地集積が進んだ地域において,農業の構造的な変化に対応するための基
盤整備や基盤データを活用した情報アプリなどを利用した営農の取組み,また地域社会の維持にかかる課題や
その対策などについて,広く報文を紹介します。

◆展 望 「中山間地域からはじまる農地集積と農村活性化-中山間の現場から-」 
                    中国四国農政局農村振興部長 松本雅夫

◆小特集
平野部水田地帯における真の低コスト稲作の実現方策と課題
     筑波大学生命環境系 石井 敦
農地集積の進展に伴う集落組織の変容と課題
     農研機構農村工学研究部門 矢挽尚貴
     三和村土地改良区 白川正昭
     農研機構中央農業研究センター 細野達夫
中間農業地域において集約化が進んだ経営体の稲作管理作業
     農研機構農村工学研究部門 坂田 賢
震災復興地区にみる農地集積の状況と農業振興の方向性
     農研機構農村工学研究部門 大和田辰明・北村浩二
集積した農地の有効利用のための排水性の評価手法
     農研機構本部 瑞慶村知佳
     農研機構農村工学研究部門 友正達美・長利洋
スマート農業を支える基盤研究の現状と将来像
     農研機構農村工学研究部門 土居邦弘
農業のSociety 5.0に向けた技術開発
     農業・食品産業技術総合研究機構 白谷栄作