学会誌 86巻11号 中山間地域の将来を見据えて(2018年11月発行)

◆小特集の趣旨
 多様で特色のある中山間地域の農業は,全国の耕地面積の約4 割,総農家数の約4 割を占めるなど,日本農業の中で重要
な位置を占めていることから,中山間地域等直接支払制度などを通じた政策的支援がなされており,その効果を上げている
地域が全国に存在します。一方で,生きがい・やりがいとして補助金などの制約を受けない農業を営みながら,先祖代々の
土地を守っている人々も多くいます。小・中・高校生や都市住民,障がい者などへの農業体験機会の提供,女性グループに
よる農家レストランや直売所の経営,SNS などを利用した農家民宿や民泊のプロモートなど,教育・福祉・観光の側面から
の取組みも全国各地にみられます。
 条件的に有利な平地の農業には産業として成立させるために強い農業を目指すという明確な将来像があります。一方,多
様な取組みがなされているとはいえ,中山間地域といった条件不利地域で集落を維持し,活力ある地域を持続させていくた
めには,長期的な視野に立った対策を今から始めなければなりません。比較的近い将来については,「小さな拠点」などのビ
ジョはあるにせよ,30 年・50 年後を見据えた将来像はあまり明確にされておらず,中山間地域の住民は先行きが見通せな
い状況で不安を抱えているのが現状ではないでしょうか。またこれら地域への息の長い政策的支援をするためには,その必
要性を訴求するメッセージを一般国民に向け広く伝えていく努力も払われねばなりません。
 学会誌第86 巻第11 号では,①10年後といった今の延長線上で考えられる近未来の中山間農村の将来像とともに,②30
年後・50 年後の農村や地域のあるべき姿や,③中山間地域を継続的に支援していくため国民に知ってもらうべきことや伝
えていくべきメッセージ,④これらのために農業農村工学が貢献できることについて,会員の皆様からの報文を紹介します。

◆展 望 「時流の中で輝く中山間地域」 岡山大学大学院環境生命科学研究科 守田秀則

◆小特集
中山間地域の持続的治水・利水戦略に向けた学際的取組み
     東京大学大学院農学生命科学研究科 木村匡臣
     東京大学大学院工学系研究科 渡部哲史
     早稲田大学人間科学学術院 西原是良
     名古屋大学大学院工学研究科 中村晋一郎
     岐阜大学応用生物科学部 乃田啓吾
     京都大学大学院地球環境学堂 田中智大
     名古屋大学工学部 辻岡義康

中山間地域の伝統的な農業システムを保全する意義
     農研機構西日本農業研究センター 廣瀬裕一・竹村武士・尾島一史・楠本良延

中山間地域の新たな土地利用としての山地酪農の意義と課題
     信州大学学術研究院農学系 内川義行

温浴施設における木質バイオマス熱利用の山間地域への経済効果
     (株)森のエネルギー研究所 竹田佳央
     茨城大学農学部 小林 久

沢地内の小河川における試験護岸施工の実施とその活用
     北里大学獣医学部 柿野 亘・落合博之
     青森フォレストワーカーズ 平野賢志
     共和ハーモテック(株)  益子祐二
     北里大学獣医学部 眞家永光・髙松利恵子・森 淳・丹治肇

低米価時代を見据えた新たな中山間地域政策の必要性
     (一財)農政調査委員会調査研究部 小川真如