東日本大震災 塩害調査

本会の 「東日本大震災」 塩害現地調査団報告(速報)

平成23年4月28日
(社) 農業農村工学会 東日本大震災塩害調査団

 

 本会では,東日本大震災に際し「災害対応特別委員会(青山 咸康委員長)」を立ち上げ,調査活動を行っている。この調査活動の一環として,岩手・宮城・福島県を中心として,大規模に発生した津波による農地塩害被害状況の把握及び復興対策に必要な資料収集を目的とした調査団を結成し,4月26日に宮城県石巻市及び名取市において現地調査を行ったので,その概要を報告する。

1.「東日本大震災」塩害現地調査団の概要

(1)調査団名簿
   会   長   河地 利彦  京都大学大学院農学研究科 教授
   調査団長   加藤   徹  宮城大学食産業学部環境システム科 教授
            千葉 克己  宮城大学食産業学部環境システム科 講師
            嶋   栄吉  北里大学獣医学部 教授
            久米   崇  総合地球環境研究所 特任准教授
            松本 精一  災害対応特別委員会 副委員長

(2)調査行程
   平成23年4月26日(火)
   08:00        ホテルを出発
   10:45         宮城県石巻市蛇田地区に到着
   11:00 ~ 11:50  蛇田地区除塩作業視察及び意見交換等
   13:15 ~ 14:00  名取市へ移動し,名取土地改良区(森理事長ほか)から被災状況の説明及び意見交換
   14:20 ~ 15:30  閖上(ゆりあげ)排水機場で機場の応急復旧状況及び周辺農地の被災状況の調査
   16:10 ~ 16:45  東北農政局において現地調査のとりまとめ
   17:00 ~ 18:00  宮城県庁3階「記者クラブ」で調査概要等を記者レク
               (説明20分・全体質問20分を行い,その後個別の質問に20分間対応)

2.現地調査の概要

(1)石巻市蛇田地区
   ○ 蛇田地区の水田は,平成12年度に圃場整備が完成(水土里ネットへびたの受益面積は286.1ha)
   ○ 津波による海水湛水状況は20cm程度で,暗渠排水の水閘等を開く措置で1週間程度で地表から水が消えた。
     塩害対策用水を3回実施し(写真1),5月25日頃には田植えを行いたい。収穫の確実性はないが,稲作に入りたい。
   ○ 現地水田の塩害状況(写真2)は,稲作限界の3倍程度の濃度であり(写真3),
     3回の耕起等の除塩作業で,濃度が低下することを期待。

(2)名取市名取土地改良区
   ○ 名取土地改良区(写真4),森理事長の被害概要の説明後,斉藤総務課長から「津波被害状況」及び
     「平成23年度かんがい用水の通水可能地域について」の説明があった(写真5)。
   ○ 調査団からは「『東日本大震災』農業農村工学会塩害現地調査に当たっての視点」を説明した。
   ○ 意見交換の中で,土地改良区からは「平成23年度から新規国営事業『南貞山堀沿岸地区』として排水機場を
    改修・整備する予定であったが,機場が被災を受けた。 原形復旧ではなく,改良復旧をしてほしい」
    「塩害被害の状況は様々で,①単に塩水をかぶった状態,②ヘドロ状の堆積物がある状態,③がれき・ヘドロが混在している状態,
    等の状況がある。硫化鉄もあり,このヘドロの除去についても調査してほしい。
    また,がれき除去後の状態は耕盤が壊されたとみており,その状況にあった整備が必要。現地で確認してほしい」
    等の意見が出された。

(3)名取市 閖上(ゆりあげ)排水機場及び周辺農地
   ○ 閖上排水機場での道路両サイドは,自衛隊による行方不明者捜索およびがれき撤去等で写真6〜9のような状況が続いていた。
     そして,機場に接近するにしたがい,水田が湛水している状況になっていた。
   ○ 閖上排水機場(写真10)は津波を受けて,建物やポンプ等が被災し,運転不能となっている。
     現在は災害応急ポンプ(写真11)で排水を行っているが,能力が不足している。
    (なお,名取地区で16台の災害応急ポンプが稼働中)
     名取地区には国営ポンプ場4ヵ所,県営ポンプ場1ヵ所があるが,梅雨前までに応急復旧を終えたいとしている。
   ○ 機場横の水田には砂礫の堆積が認められた(写真12)。機場に入る排水路の水質(EC)調査(簡易法)を行った(写真13)。

3.宮城県庁での記者会見

○ 宮城県庁3階記者クラブにおいて,調査報告の記者会見を行った(写真14)。
  まず河地利彦学会長から,「東日本大震災による未曾有の大震災で逝去された方々に哀悼の意を表し,被災された皆様に心からのお見舞いを申し上げます。1日も早い,地域の復旧・復興と生活の再建をお祈り申し上げます。東日本大震災に際し,農業農村工学会では『東日本大震災特別調査団』を立ち上げ,調査活動を行ってきました。私どもには,狭い国土を拡げるための海面,内水面の干拓に古くから携わった経緯と技術の蓄積があります。今回の災害で地盤沈下,海岸低平地の堤防決壊等による農地,地下水への塩分侵入に伴ういわゆる塩害を受け,また,いまだ受けつつある状況に鑑み,除塩対策技術を復興に役立てていただきたいと考えております。」 と挨拶した。
  次いで,調査団長である加藤徹団長から 「私ども調査団は,本日午前,午後の1日間,津波により海水が侵入した農地の塩害被害か所を調査しました。現地の破壊のすさまじさには声もありませんが,農地の除塩対策を行う前提としての海岸・河川堤防,地域の基幹的な用水路,排水路,排水機場などを復旧させた後に,個別農地の除塩工事に入らねばならないという実態を再確認いたしました。今回の津波被害,これに伴う広範な塩害は,これまで経験した塩害とはまさに『別次元』のものであると捉えています。つまり,塩害とは,土壌に海水が流れ込み,土壌水分中の塩類(水溶性物質)濃度が上昇する現象ですが,塩分濃度によって作物の水分吸収に障害を及ぼすことをいいます。また負の電荷を持つ土粒子に陽イオンであるナトリウム,マグネシウムなどが結合し,作物生育に必要な元素のバランスを崩す濃度障害などの影響が出るものです。農地の塩害除去は,水田等に真水を入れて地下に侵透させ,その排水を地区外に出す手法をはじめ,土壌改良材の散布,圃場の耕起,圃場表面水・地下水の排除等のさまざまな対策が必要となります。調査団が現地調査をした結果を,別紙のとおり報告させていただきます。塩類集積は農業生産にとって難敵でありますが,農業農村工学会として,これまで干拓などで培った科学的知見を礎として,この課題に対し,総力を挙げて技術的支援を行っていく考えです。」 と説明した。
  配布した「『東日本大震災』農業農村工学会塩害現地調査報告」を岩崎和己専務理事が報告した。

○ 記者からの質問の中で,調査した結果等報告するものはないか,に対して,閖上機場附近での水質調査結果が,
  簡易法ではあるが水稲の栽培可能塩分濃度の7倍程度の値を示していたと発言。
  また,なぜ名取を選んだのかの質問に対しては,宮城県内の津波被害は,石巻から山元地区までほぼ同じような大きな被害と
  考えていると発言等があった。

○ 4 月 26 日のマスコミ報道状況
  4 月 26 日(火) 宮城テレビのニュースで放送

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