人工知能(AI)技術は近年,共有可能なデジタルデータの増加,アルゴリズムの高度化,計算機能力の向上などによって加速度的に発展しています。またAI関連の技術やフレームワークがオープンソースとして提供されることなどにより,さまざまな分野でその応用が進み,広範な産業領域や社会インフラなどに大きな影響を与えています。
一方,農業分野では農業労働力の主力となる基幹的農業従事者は年々減少傾向にあり,2020年の統計では65歳以上が70%を占め,担い手の高齢化や後継者不足が大きな問題となっています。現在の農業は,生産工程の多くで農業機械をはじめさまざまな技術の導入が進み,省力化が進展していますが,人手に頼る部分もまだまだ多く,一層の生産性向上のためには,ロボット,AI,IoTなど先端技術の導入により,作業の省力化・自動化,高度化等の農業のDX化を進めることが課題となっています。このため農林水産省では農業のDX化を推進しており,農業農村工学分野においては,ダムや橋梁などのインフラ点検において,センサーやドローン等を活用した点検・監視が行われつつあり,農業水利施設の維持管理についても,デジタル技術を活用して,日常的な点検や,機能診断,監視の省力化や,データ分析に基づく保全管理の効率化が進められています。これらの施策の推進により得られたデジタルデータの蓄積と,前述したAI技術の発展は,農業農村工学分野の技術に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。
このような中,本小特集では農業農村工学分野におけるAIの活用を取り上げます。AIは技術⾰新のスピードが速いことから,現時点での事例を広く共有することは,今後の技術開発や政策へのAIの活用法を検討する上での礎となります。このような観点から,農業用施設の機能診断,各種解析,情報化施工,経験知の継承,防災および事故防止,作物分野と連携したリモートセンシングなど,農業農村工学分野へのAIの活用事例や研究に関する報文を広く募集します。また昨今話題となっている生成AIや説明可能なAIの農業農村工学分野への活用事例や研究に関する報文も歓迎します。
なお,近年のAIは,機械学習,特に深層学習(ディープラーニング)に基づくものが中心となっていますが,本小特集ではAIを機械学習に基づく技術に限定せず,それ以外の人工知能技術も対象とします。また報文では活用したAIの評価についても論じていただけたらと存じます。