全国には,「防災重点農業用ため池特別措置法(令和2年10月制定)」(以下,「ため池工事特措法」という)に基づき都道府県知事が指定した防災重点農業用ため池が,約5万4千カ所存在(令和3年7月末時点)しており,防災工事等を令和12年度までに完了することを目指し,劣化状況の調査や防災工事が進められています。また,防災工事等の推進に当たっては,ため池工事特措法で定める「防災重点農業用ため池に係る防災工事等基本指針」において,農業用ため池が有する生物の多様性の確保をはじめとする自然環境の保全等の多面的な機能にも配慮することが重要と定められており,環境との調和に配慮した事業が求められています。
したがって,農業農村工学分野からも,限られた期間の中で膨大なため池の整備について,優先度の高い農業用ため池の選定,堤体や洪水吐等の劣化状況調査等,事前の環境調査および環境配慮対策をどう考えていくのかが必要といえます。
ため池特措法の施行から2年以上が経過した現状において,多数の農業用ため池の調査および防災工事を短期間で実施することが求められていること,営農者の減少により実質的に取水源として使用されていないため池の取扱い,また,利用実態のないまま放置されている小規模ため池であっても,防災上の視点にとどまらず,希少種の生息状況の調査や生物多様性保全に着目した整備が必要等の多くの課題が指摘されています。
そこで,本小特集では,地方公共団体で多数の防災重点農業用ため池を対象とした防災工事等の計画手法の知見として,@多数のため池を対象とした,ため池の優位付けや対策工法の新技術の事例,A農業用水としての利用実態がないため池の廃止工事や廃止工事を行わず残置した際の関係者間の調整事例,Bため池の防災・廃止工事を計画する上で,事業計画段階での環境調査と環境配慮方策の考え方,その工事中と工事完了後の調査事例等,幅広く報文を募集します。