農業水利施設は,わが国の食料供給と農業・農村の多面的機能の発揮に不可欠な国民的資産となっており,基幹的な用排水路だけでも約5万km,末端も含めれば40万km以上という膨大な資産を形成しています。戦後から高度経済成長期急速に整備が進められたこれらの施設は老朽化が進行しており,現在,これら施設の機能を効率的に保全していくためのストックマネジメントの取組みが進められています。また,近年では,農業者の高齢化・減少等に対応するため,スマート農業の実装を可能にする施設整備が求められています。
新たな土地改良長期計画(令和3年3月23日閣議決定)においては,政策課題に「農業・農村の強靱化」,「生産基盤の強化による農業の成長産業化」が位置づけられており,ICT等の新技術を活用した農業水利施設の戦略的保全管理や,スマート農業推進の観点から多様化する水需要に柔軟に対応するICT水管理等を可能にする農業生産基盤整備を推進する視点が盛り込まれています。今後の農業水利施設のストックマネジメントにおいては,地域の実情に応じて新技術の導入を適切に図ることで,施設の長寿命化や機能保全を効率的に推進することが重要になると想定されます。また,農業水利施設では,従来の幹線系の通信システムであるTM/TCに加えて,支線系から圃場までの情報インフラの整備等による新たな管理体制作りが検討されています。
こうした状況を踏まえ,第91巻第11号では「農業水利施設の管理,保全,更新」に焦点を当てた小特集を企画します。スマート農業に対応するための農業水利施設の管理や整備,あるいはICT,AI等の新技術を活用した施設の点検や機能診断のさらなる省力化・高度化といった農業水利施設の保全や更新に関して,多様な視点からの報文を募集します。