2021年3月に閣議決定された新たな土地改良長期計画では,わが国の活力ある農業・農村を次世代につなぐため,農業農村整備事業が果たすべき役割などを整理しつつ,「新たな食料・農業・農村基本計画」に加え,「国土強靭化基本計画」などの上位政策を踏まえた内容が盛り込まれました。その基本的な視点は,@人口減少下で持続的に発展する農業の振興,A多様な主体が住み続けられる農村の振興,B農業・農村インフラの持続性・強靭性の強化の3本柱です。
さらに,本長期計画を技術面から推進する「農業農村整備に関する技術開発計画(現行,平成29年4月策定)」も令和3年度前期の改定に向けて検討がなされています。この技術開発計画では,特に,従来の都市一極集中型の居住形態や人が密集する働き方からの転換を促し,テレワーク,遠隔操作等の技術のニーズを高めています。また,近年のデジタル技術は急速に発展しており,農業農村整備事業の実施に当たっても,スマート農業に代表される農業のデジタルトランスフォーメーションにより工程そのものを大きく変え,働き方の改善を含め生産性を高めていくことが必要となっています。
また,温暖化による気候変動,大規模自然災害の増加,農業由来の温室効果ガスの排出,生産基盤の脆弱化や地域コミュニティの衰退,新型コロナウイルス感染症の拡大を契機とした生産・消費の変化が挙げられ,こうした課題への対応が一層重要になっています。
このような状況に対応するためは,農業・農村の生産力の向上と持続性の両立をイノベーションで実現していくため,脱炭素・環境負荷軽減の推進,イノベーション等による持続的生産体制の構築,持続可能な農山漁村の創造等に資する技術の開発を指向する必要があります。
そこで,本小特集では,大きな社会の転換点に立ち,土地改良事業の政策や技術開発の将来を展望し,策定された新たな土地改良長期計画などを土台にして,将来の農業農村工学の責務や役割についての報文を広く募集します。なお,あと8年後の2029年には,学会発足から100年の歴史的な節目を迎えますので,長期的な農業農村工学の展望に関する報文も歓迎いたします。