土地改良区は,農業農村整備事業の申請者や農業水利施設の施設管理者として農業農村整備の主体となる存在です。しかし,農業構造の変化や担い手不足,高齢化を背景にその組織構造が大きく変化し,また,これらに起因する組織・運営上の問題点や脆弱性も指摘されています。2018年10月の土地改良法の改正では,これまで明文化された規程がなく慣例的に行われてきた場合が多かった農業用水の利用の調整方法について,土地改良区が水需要の実態に応じた農業用水の適切な配分が行われるよう,新たに利水調整規程を定められたことで,土地改良区の役割も広がっています。
全国の土地改良区の総数は,1980年の9,031地区から2019年には4,403 地区と半減し,その間の一地区当たりの面積は380haから567ha へと約1.5倍に拡大しています。また全国の組合員数は,同じ年の間での比較では,4,891千人から3,505千人へと約30%減少しています。これらの傾向は,農業水利施設などの維持管理,土地改良区の運営,さらには農業の担い手の農業経営に大きな影響を及ぼすと考えられます。
一方,現在議論されている新たな土地改良長期計画の検討では,今後の農業者の高齢化や労働力不足に対応しつつ,生産性を向上させ,農業を成長産業にしていくための方策が検討されています。そこではデジタル技術を活用することで,データ駆動型の農業経営を通じて消費者ニーズに的確に対応した価値を創造・提供していく,新たな農業への変革(農業のデジタルトランスフォーメーション(農業DX))を実現することが不可欠であるとしています。
実際,いくつかの土地改良区では,地域農業を支える灌漑施設の点検業務を改革し,技術伝承の仕組みを確立してICTで点検精度向上を実現している先進地区も散見されます。
そこで,本小特集では,土地改良区を巡る状況,土地改良区の組織や制度,施設管理にロボット・AI・IoT等の先端技術を活用した事例など今後の農業の動向を見据えた土地改良区の方向性に関する報文を広く募集します。