89巻第2号テーマ「中山間地域における水路インフラの保全・活用と農業農村工学」(仮)

 

山腹水路をはじめとして,中山間地域に造成された水路は,生産環境,生活環境,自然環境の面で重要な役割を果たしています。第88巻第8号で小特集を行ったテーマである「多様な主体が住み続けられる農村」としての中山間地域を目指す上では,これらの水路の保全管理が重要です。

水路の持続的な保全管理を通して,農林地やそれを取り巻く環境が維持されれば,中山間地域を含む流域上流部が持つ,洪水防止や水源涵養,土壌浸食防止などの生態系サービス(農林地の持つ多面的機能)の発現も期待されるため,それの果たす役割は大きいといえます。

しかし,中山間地域の収益の低さ,管理の困難さや利便性の低さから,若年層などが都市部へ移住するなど,地域の人口減少や高齢化によって産業が弱体化し,それに伴って水路施設の維持・管理ができず,老朽化が深刻です。また近年のICT導入による精密農業への取組みについても,生産性・収益性の観点から,インフラ整備が難しい中山間地域には目を向けられず取り残され,水路などの管理不全が課題となっています。

本小特集では,中山間地域における水路インフラの保全・管理の必要性・重要性に向けた議論を活性化する上で参考となる報文を広く会員の皆様から募集します。特に農業農村工学分野に関係の深い,

@収益性の低い中山間地域の生産・生活用インフラの一つである水路を保全する理由は何か?

A山腹水路の持つ今まで気が付かなかった価値は何か?

B生産・生活用インフラとしての水路保全という視点を離れ,農業遺産のような伝統的・歴史的価値に視点を移して保全・管理の資源を使った方が良いのか?

などを考えるため,現在行っている水路保全のための特色ある枠組み・取組み・仕組み,農業遺産に認定された水路と町おこし,生態系サービスの視点から見る水路保全・活用,などの報告を期待します。