世界農業遺産は,世界的に重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域を国際連合食糧農業機関(FAO)が認定する制度です。また,世界かんがい施設遺産は国際かんがい排水委員会による,歴史的・技術的・社会的価値のある灌漑施設を登録・表彰するためのものです。
これらに認定・登録された施設は,新聞などのマスメディアに取り上げられることが多いため,これらの制度の存在は広く知られていると思います。一方,農林水産省のウェブサイトによると,たとえば世界かんがい施設遺産では「登録により,かんがい施設の持続的な活用・保全方法の蓄積,研究者・一般市民への教育機会の提供,かんがい施設の維持管理に関する意識向上に寄与するとともに,かんがい施設を核とした地域づくりに活用されることが期待されています」とありますが,具体的にどのような取組みが行われているのか,これらを実現する際にどのような苦労や問題点があるのか,といったことについてはあまり認知されていないように思います。
世界農業遺産については国内で11件の登録があり,わが国は中国に次いで2番目に認定地域が多い国です。世界かんがい施設遺産に至っては全74件の登録のうち国内での登録件数は35件もあります。これは,日本が雨の多い地域で昔から水を上手に使うことで豊かな国土を維持してきた先人たちの「遺産」が豊富にあることを意味しています。これらの優れた農業システムや灌漑施設を有効に使うことで,地域の活性化や観光などの経済的側面のほか,教育や地域住民へのアピールを通して地域の中での農業の役割や地域愛を育むなど,地域おこしに役立つはずです。
そこで本小特集では,世界かんがい施設遺産や世界農業遺産を活用した地域おこしの取組みやその効果の検証,実施の際の苦労などについて,現場で実際に取り組まれている実務者の方々やコーディネートされている行政の方々,あるいはそこで研究されている方々などの幅広い方々からの報文を募集します。さらに,これらの登録・認証制度を利用した地域おこしの可能性や地域のアピールの方法など,実際の取組みだけにとどまらす,世界かんがい施設遺産や世界農業遺産に関連する報文を広く募集します。