学会長からのご挨拶

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公益社団法人 農業農村工学会 第28期会長  平松 和昭 (Hiramatsu Kazuaki)

 令和4(2022)年5月25日開催の農業農村工学会第269回理事会において、第28期会長に再任されました。会員各位・諸団体のご支援、副会長をはじめとする理事、ならびに学会事務局各位のご協力を得て、引き続きその職務に当たる所存であります。
 農業農村工学とは「農業の生産性向上と農村の生活環境の整備、農業農村にかかわる中小都市も含めた地域全体の持続的発展を図るため、循環を基調とした社会を構築し、水・土などの地域資源を、人と自然の調和、環境への配慮を重視して合理的に管理する科学技術」と定義されています。その科学技術を担う農業農村工学会は、昭和4(1929)年に「農業土木学会」として創立されて以来、農業生産基盤と農村生活環境に関する研究者や技術者の活動の場となってきました。平成19(2007)年には、対象や手法の拡がりと多様化に合わせて、名称を現在の「農業農村工学会」に変更しました。平成24(2012)年には、社団法人から公益社団法人に組織形態を変更し、「農業農村工学の進歩及び農業農村工学に関わる研究者・技術者の資質向上を図り、学術・技術の振興と社会の発展に寄与する」ことを目標にさまざまな活動を展開しています。
 令和3(2021)年3月23日に閣議決定された土地改良長期計画は、農業・農村が目指すべき姿として、「人口減少下で持続的に発展する農業」と「多様な人が住み続けられる農村」を掲げており、これらを実現するには産業政策、地域政策それぞれの視点に立ち、地域振興施策をはじめとする関連施策と連携するとともに、近年頻発化・激甚化する災害に対応する農業・農村の強靱化を図ることが必要であるとしています。具体的には、①生産基盤の強化による農業の成長産業化、②多様な人が住み続けられる農村の振興、③農業・農村の強靱化の3つの政策課題、およびこれらに対応した5つの政策目標が定められています。
 さらに、食料・農林水産業が利活用してきた土地や水といった自然資本の持続性に大きな危機が迫っている中、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるための政策方針として、みどりの食料システム戦略が、令和3(2021)年5月12日に、みどりの食料システム戦略本部で決定されたところです。この中で、自然資本である水と土を扱う農業農村整備については、環境との調和に配慮しつつ、省力化等による農業の成長産業化を図るための農業生産基盤整備、農業水利施設の省エネ化・再エネ利用の推進等に取り組むとされており、豊かな環境・資源を次世代に引き継ぐため、農業・農村の持続的な発展に資する技術の開発がより一層重要になっています。
 また、新型コロナウイルス感染症の拡大は、従来の都市一極集中型の居住形態や人が密集する働き方からの転換を促し、リモートワーク、遠隔操作等の技術のニーズを高めています。IoT、ロボット、AI、ビッグデータといった技術の発展は、技術開発の高度化や手法の多様化を促し、開発から実装までのタイムスパンを縮めています。こうした現在の技術開発の発展を農業農村整備分野においても取り入れていくためには、これまで農業に関わりのなかった幅広い分野・世代の人材が参画できる環境を作ることが必要であり、他分野も含めたさまざまな連携を強化していくことが重要です。加えて、近年のデジタル技術は急速に発展しており、農業農村整備事業の実施に当たっても、スマート農業に代表される農業のデジタルトランスフォーメーションにより、工程そのものを大きく変え、働き方の改善を含め生産性を高めていくことが必要となっています。 このような現状を鑑みると、これまでとは大きく異なる状況下で「これからの農業と農村のあり方」を考究し、進むべき方向性を明確に確定し共有した上で、継承すべきものと新たに創出すべきものを整理するとともに、得られた知見や新技術を社会に還元することが、今まさに求められており、農業農村工学の研究者・技術者への期待とその役割は、これまでにも増して大きなものとなっています。平成13(2001)年に示されたビジョン「新たな〈水土の知〉の定礎に向けて -生命をはぐくむ農業・農村の創造-」を今一度、振り返り、皆で再共有する時と感じます。
 農業農村工学会がそのような期待に応えるために、最優先で取り組まなければならない課題は、人材確保と人材育成です。農業農村工学会が核となって、大学や研究機関の研究者、行政機関や民間会社、地域レベルの関係団体などの技術者が連携し、国内外の社会が直面する難題に立ち向かっていくことで、若い人々に農業農村工学が魅力ある分野であることを発信し、同時に、この分野で活躍することに生きがいを感じられるような仕組みを、皆で考える必要があります。特に、農業農村工学分野の大学は、大学改革が進められる中で非常に厳しい状況にあり、農学系学部受験者の減少、農学系大学院における博士課程進学者の深刻な減少傾向を打開すると同時に、若手教員・研究者ポストを確保することが求められています。
 今後、新型コロナウイルス感染症の影響がどこまで続くのか、見通せないところですが、たとえば、今年の8月に金沢市で開催が予定されている2022年度(第71回)農業農村工学会大会講演会は、対面とWeb併用のハイブリッド形式で検討が進められています。このように、学会の運営も新たな展開の時期にさしかかってきており、今まさにWith/Afterコロナにおけるニューノーマル、ニュースタンダードへの変容・変革が求められています。そのような中、第28期の学会全体の運営方針として、With/Afterコロナを踏まえた、次代を担う人材の確保と育成のために、産官学の新たな連携と学会活動の一層の活性化により学会の存在意義の明確化を推進したいと考えており、役員一同努めてまいりたいと思います。
 これらの対応も含めて、会員各位のより一層のご協力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。